「ねえ、終わったよ」
「ん……?」
肩を叩かれ意識を取り戻したのは、
映画館が明るくなってからのことだった。
「う、寝てた? ごめんね」
目をぐっとつぶってからまばたき。
寝てる間に変な顔してなければいいけど。
「ここのところ残業続きで君も疲れてたんだろ?
しょうがないよ」
彼の優しい笑顔に痛む胸。
「ごめんね。出たら何かおごるから、喫茶店でも寄っていこう?」
人もまばらになった席を立ち、出口に向かって歩きながら。
「今日だって仕事むりやり片付けて
引き上げて来たんじゃないの? 帰って休んだほうがよくない?」
「ううん、わたしが嫌なの、こんな終わりかた。
今日だって久しぶりだったし、すごく楽しみにしてたんだよ」
「ぼくだって楽しみにしてた」
うう。なのに何で寝ちゃうかなあ。
「ごめんね。今度はわたしが全部出すから
遠くないうちにまた会おう?」
「同じ映画でも見る?」
その一言が心に重い。
「ごめんね、ほんとに。……映画、どうだった?」
訊ねると、彼は目を細めて柔らかな笑みを浮かべて言った。
「ぼくに訊かれてもなあ」