おれは今まで、これほど他人と心が通い合う空間に
いたことはない。
前のほう以外は薄暗いこの広い会場、
その場に居合わせるほとんどの人間が、
なにも言わなくても同じ気持ちを共有していた。
結婚の誓いを済ませたばかりの二人を囲み、
口々にほめそやす人々。
「まあ〜、かっこいい」
新郎に。
「わあ、きれい」
新婦に。
でもだれもが注意深く、主語を口にしないように
気をつけているのが痛いほど伝わってくる。
そこへかわいくおしゃれした女の子が
新婦のそばに駆け寄り、叫んだ。
「わー、きれいー!」
あたりに走る、肌も切れそうな緊張。
『ウェディングドレスが』なんて言うなよ。
そのまま黙るんだ!
祈るような視線の中、女の子は顔いっぱいの笑顔で
振り向き、言った。
「おかーさん、きれいだよね、およめさん」
純粋な心に、思わず息を飲む汚れたおれたち。
一つだけ聞こえた声は、女の子の母親のものだ。
「えっ、うそっ!?」