「さーて、お前の晴れ舞台だ。呼べる人はみんな呼ぼうな」
結婚式の招待状を送る人の名簿を前に、
おやじは嬉しそうに、すこし悲しそうにためいきをついた。
「じいちゃんはいいよ」
おれが言うと、
「なんで? あんなにお前のこと気にかけてたのに」
――うん、それは知ってる。一人孫だからだろうか、
昔から会うたび言ってたよな。
『おれもいつまで生きられるかわからんけど、
お前の嫁さんを見るまでは死ねないんだ。
早く嫁さん見せて安心させてくれよ』
おやじには厳しかったらしいじいちゃんだけど、
おれにはいつも優しかった。
そしておれはそんなじいちゃんが大好きだった。
だから――
「おれが結婚したの知ったら、
じいちゃんぽっくり逝っちゃうんじゃないか?」
「ははははは!」
大口を開けて笑うおやじ。
「なんだ、お前そんなこと気にしてたのか」
笑いながら名簿の一番上にじいちゃんの名前を書いた。
「心配するな。あのじいさんはそんな殊勝なたまじゃない」
結婚式当日。
黒い服で身を包むじいちゃんは昔よりもずっと老けていた。
でも、おれの前に来ると満足そうな、
それにいたずらっぽいような笑顔で言ったんだ。
「おれもいつまで生きられるかわからんけどな。
ひまごの顔を見る前には死ねないんだ。
早くひまごの顔を見せて安心させてくれよ」