0989
2006-10-19
軽く重く
「さーて、お前の晴れ舞台だ。呼べる人はみんな呼ぼうな」
 結婚式の招待状を送る人の名簿を前に、
おやじは嬉しそうに、すこし悲しそうにためいきをついた。
「じいちゃんはいいよ」
 おれが言うと、
「なんで? あんなにお前のこと気にかけてたのに」
 ――うん、それは知ってる。一人孫だからだろうか、
昔から会うたび言ってたよな。
『おれもいつまで生きられるかわからんけど、
お前の嫁さんを見るまでは死ねないんだ。
早く嫁さん見せて安心させてくれよ』
 おやじには厳しかったらしいじいちゃんだけど、
おれにはいつも優しかった。
そしておれはそんなじいちゃんが大好きだった。
 だから――
「おれが結婚したの知ったら、
じいちゃんぽっくり逝っちゃうんじゃないか?」
「ははははは!」
 大口を開けて笑うおやじ。
「なんだ、お前そんなこと気にしてたのか」
 笑いながら名簿の一番上にじいちゃんの名前を書いた。
「心配するな。あのじいさんはそんな殊勝なたまじゃない」

 結婚式当日。
 黒い服で身を包むじいちゃんは昔よりもずっと老けていた。
でも、おれの前に来ると満足そうな、
それにいたずらっぽいような笑顔で言ったんだ。
「おれもいつまで生きられるかわからんけどな。
ひまごの顔を見る前には死ねないんだ。
早くひまごの顔を見せて安心させてくれよ」