『ばかを知りたきゃコールセンターへ来い!』
って本を、いつか書くよ。
冗談交じりにそう言って笑った先輩はもういない。
でもわたしは――
「ちょっと、聞いてるの」
受話器の向こうで不愉快なおっさんが不愉快そうな声を出した。
「はい、伺っております」
「なんで融資できないって言われるわけ?
なにも全部の奴らに融資してくれって言ってるわけじゃない。
おれにだけでいいんだよ」
あのねえ。他の人にできないものをあなただけ特別に
やるってことは、不正融資だってことがわからない?
「申しわけありませんが、わたくしに決裁権はございません。
なお、こちらは当行のご案内電話となりまして、
そういったご質問にはお答えすることはいたしかねます」
するといっそう不快な声で言う。
「そんなこと言っていいのか?
おれはあんたらの社長と知り合いなんだぞ」
わー、すごーい。
銀行の電話を受けたって
コールセンターなんてたいてい雇われ。
派遣社員や委託業務員ばっかりなのに。
「おめでとうございます!
社長とお知り合いとはうらやましい限りです」
わたしは言った。
「では、後のご不満、ご要望は弊社社長に直接お話くださいませ」