支払いの督促に向かう若い男と中年男の乗った車は
沈鬱な空気ごと二人を運んでいた。
「はあ」
のそりと下に落ちていく若い男のため息。
「まあ、そう言わないで」
運転する中年男が軽くあきらめたような苦笑いで言った。
「だって……こんなこと、しないならしなくていいはずなのに、
なんでやらなきゃいけないんですか」
「しょうがないよ。支払わなくていいなら誰も払わなくなるし、
払った人がばかを見るようなことはやらせちゃいけない」
「それでまたばかげたやりとりですよ。
お金がないから払えないっていうならまだわかりますよ?
なのに、お金があるのに払わない、
払いたくないってなんなんですか」
ふう、と中年男もため息をつく。
「だから、教えなきゃいけないんだろうなあ。
払うべきものを払わないとはどういうことなのか。
支払いを滞らせるとはどういうことなのか」
「まったく、因果な商売ですね」
やりきれないように頭を振りながら、若い男は言った。
「教師はこどもたちに勉強を教えるものだと思ってましたよ。
……それが、給食費を滞納する親にまで
教えなきゃいけないなんて」