晩ごはんのとき、おとうさんが出してきたたらこ。
一口食べたとたん、
「なにこれ!? おいしい!」
わたしは思わずたらこを見つめた。
「ははは、うまいだろ? 今日一番の仕入れだったんだけどな。
一日かけてもほとんど売れなかった」
「ええ? なんで? こんなにおいしいのに」
するとおとうさんはため息をついて、
「色味が悪くてうまそうに見えないんだってさ」
「ええ? だってたらこって、こうでしょ?
それに、おいしそうに見えなくたって
実際に食べておいしければいいじゃない」
わたしの頭に乗る、さかなのにおいのする手。
「おまえは目が利くからな。でも、みんながみんな、
そんな奴ばかりじゃないんだ」
次の日。
晩ごはんのときにおとうさんが出してきたのは、
どくどくしい人工色をした たらこの切れ端。
「なにこれ?」
「昨日のたらこを染めたんだ」
「え〜、なんでぇ? もったいない」
「ところがすごい勢いで売れてったぞ。
これはおまえに食べさせようと途中で取っておいたんだ」
「へえぇ」
そんないわれあるものなら、食べてみなくちゃ。
「なんか嫌な味が残るね」
「わかるか?」
おとうさんはわたしの頭に大きな手を乗せて、やさしく撫でた。
「飾らない素のままがいちばん見た目もいいし
味もそこなわないのに、ごてごてと醜く飾り付けなきゃ、
選ぶ気も起きないんだとさ。……世の中ばかばっかりだ」