うちのコールセンターにはこんなお約束がある。
・朝の電話は10時37分まで『おはようございます』で
はじめること。
・お礼は『おありがとうございます』と言うこと。
・お客さんに質問するときは、『教えてください』と言うこと。
その他もろもろある内容は、どれも奇妙なことばかりだった。
「なんでこんな変な決まりがあるんですか?
お客さんから文句が来ません?」
室長に訊ねると、
「君もすぐわかると思う」
悲しい顔で答えた。
そして何日かしたあと、電話対応中の室長が
わたしに激しく手招きをする。
そばに行って横聞き用の受話器をとると、
聞こえてくる不愉快な声。
『だからさ、わかる? 上の名前、下の名前なんか言われたって
こっちはわかんないんだよ』
「それはもうしわけありませんでした」
『もうしわけないじゃねえよ。それを何度も訊かれて
こっちはばかにされた気分なんだよ。
いちいちわけのわかんねえおきれいな言葉使いやがって。
最初の名前、ケツの名前って聞きゃあいいじゃねえか。
次かけたときこんなんだったら許さねえ。
ネットなりなんなりで言いまくって、会社でもおまえんとこの
モノなんか一生買わないようにしてやるからな』
「はい、重々気をつけます」
『ちゃんとしろよ、クソやろう』
そして投げつけるように電話は切れた。
「なんです? これ」
「自分の思い通りにならないと
すぐ文句をつけてくるクレーマーさ」
やりきれないため息をこぼしながら頭を振る室長。
「普通の人ならあんなこといいませんよ」
「ああ、普通の人ならね。でも、うちらが対応するのには
そんなのはいないんだよ」
それからさらに数日後。
コールセンターのお約束にまた一つ加わっているのに気付いた。
・名前を聞くときは、『頭の名前』『ケツの名前』と言うこと。