1010
2006-10-25
とり
 今日は九月九日。雲もなく空の澄んだいい日和。
おかあさんたちも出かけたことだし、
鬼の居ぬ間に洗濯でもしよう。
 居間の棚からおとうさんおとっときのお酒と
おちょこをもって上に行く。
 今が一番いい時期だとかおとなたちは勝手に言うけど……
「♪しょせんわたしは まだ籠の鳥。うさを晴らすにゃ 水酉で〜」
 ってなものなのだ。
 物干し台で日を浴びて、古代の人に思いを馳せる。
 昔のこの日は高台に登り、お酒を飲みながら
長寿を願うのが人々のならいだったとこのまえ授業でやった。
 鈍く黒いつやに光を映すおちょこにお酒をついで、
まずは匂いを確かめる。
「ん〜、いいにおい」
 ほんわりただよう甘いかおり。つくづくわたしも風流だ。
「じゃ、健康と長寿を願って」
 かんぱーい。

 きゅっと一息にあおってみて、
「ぼっ!」
 そして一気に噴き出した。
 口を押さえる指の隙間からはぼたぼたと
血でない液体が落ちていく。
「ぐ……。げふげふげふ」
 鼻に! 鼻に入ったあー!
 なにこれ? 飲み物だとかそんなものじゃなくて、
ただ痛いんだけど。なにが良くてだれがこんなの飲んでるの?
「もー飲まない! こんなもの頼まれたって飲むもんですか!」
 鼻水とお酒の混じった液体を手のひらでぬぐい、
涙を拭いていると、
「たーだいまっ」
 扉を開けて、おかあさん。
「あ、おかえり」
 そんなわたしを一目見ると呆れ顔。
「まーた酔狂なことやってるの?」
「酔狂じゃないよ。すいちょう止まり」