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2006-11-06
やってみなくちゃ
 ある日の放課後、教室のドアを開けると
中にいたクラスの女子が飛び上がるように振り返っておれを見た。
「なにやってんだ? そこ――」
 お前の机じゃないだろ?
「言わないでっ!」
 ぱちんと手を合わせて頭を下げる。
「なんだよ、恋のおまじないとかか?」
「う」
 あからさまにこわばる体。
「ばっかばかしい。おまじないって、あれだろ? 
好きな人の使ってるノートの最後のページを切り取って
自分の名前を書いておくと、そいつがノートを使い切ったときに
想いがかなうとか、好きな人の消しごむに恋のライバルの
名前を書いてそいつに使い切らせればライバル脱落とか、
好きな人の使ってるペンで二人の名前を書けば
両思いになれるとか」
「う……」
「ばかだなあ。ほんとにばかだなぁ。
そんなの効かないって。やめとけよ」
 すると拗ねたように横を向いて。
「なんであんたにそんなことがわかんの? 
やってみなくちゃわかんないじゃない」