大学が創立記念日で休みの日。いつものように友達と
お菓子をつまみながらおしゃべりをしていると、
「ねえ、ちょっといい?」
申しわけなさそうにおかあさんが扉を開けた。
「パソコン動かなくなっちゃって……。
急ぎの仕事やらなきゃいけないんだ。
悪いんだけど、見てみてくれない?」
「えー」
そんなの、わたしに言われてもなあ。
わたしに、言われてもなあ。
おかあさんの視線を受け流すように、視線を友達に。
「やれやれ、どうにも困った子猫ちゃんたちだ。
ボクがいないとだめなのかい?」
彼女はやれやれと首を振ると、
お芝居風にもったいぶって立ち上がった。
「ごめんね。成功の暁には
おかあさんがきっとおいしいもの買ってくるからね」
わたしはさらりと言ってみた。
「え〜、ケーキか何かでいい?」
「あ、いいですよ、悪いですから」
おかあさんの申し出を断る友達に、
「いいからいいから」
うまくいけば一人、ただ得だけをする人がいるのはないしょ。
パソコンの場所までつれていくと、友達はさっそく見始めた。
画面をみながら中腰で、かちかちがちゃがちゃ音を出す。
「このソフトが使えるようになればいいんですか?」
「そう。会社で使ってるのを持ってきたんだけど」
「ふーむむ」
それからネットで開いたページを真剣な目で読んでいく。
「どう? なおりそう?」
「ん〜、そうですねえ……」
その瞬間、友達の目がくわっと開いて、
「ドングル!」
ふと、つぶやいた。
「え? なにかわかったの?」
すると友達は立ち上がり、
「危ないから離れてて」
手を突き出してわたしたちに言った。
それから、
「秘技! 活線挿抜!」
普通に動いた右腕がUSBケーブルを一本抜き、
なめらかに別の口に差し込む。
「か、活線挿抜(かっせんそうばつ)だって!?」
わたしは思わず叫んでいた。
「まさか、それは大陸で三千年前から伝わる幻の回復術?
大地を流れる気を体内に取り込み、
その乱れを強制的に治すというあの技を
まだ使える人間がいたなんて!」
「こらこら。はい、できましたよ」
後ろに立っていた友達。画面を見てみると
さっき止まっていたはずのソフトが動いている感じがした。
「あ、動いた〜、よかった」
おかあさんはほっとためいき。
「どうやったの?」
「えーと。これはまず認証用の機械があって、
そこに直列にささないとソフト自体が動かないんです」
「へえ〜」
二人一緒に声をあげ、わたしはそれから訊いてみた。
「じゃ、活線挿抜って?」
「ああ、電源入れたままで抜き差しすること」
「へえ〜。パソコンって、拳法みたいなところもあるんだねえ」
しみじみとおかあさんはつぶやいた。