「たとえば地雷原に踏み込んだことに気付いたとして。
一秒でも長く生き延びる方法はなんだと思う?」
軽くいすをわたしの方に向けながら、先輩が訊いた。
「ええ? それは……動かなければいいんじゃないですか?」
「うん。だって普通の地雷は、ただそこに埋まってるだけ
だからね。でも、それが自分から走ってくるとしたら?」
「気が気じゃないですね」
「うん。何もしなくてもやってくるからたちが悪い」
と。
「ちょっと、勤務時間中に話してないでよ」
後ろから室長が声をかけて歩いていった。
『別に電話中じゃないんだし、それくらいいいじゃない』。
そんな表情が先輩の顔に浮かぶ。
「でも、あと十分。電話なくて終われればいいですよね」
わたしが言うと、
「あ、ばか」
「え?」
ポー! 目の前の電話が鳴った。
「あ〜、あたっちゃったね」
うう……。この時間で電話をとったら残業確定なのにぃ。
いやいや手を伸ばす横で、先輩の声が聞こえた。
「気を抜いた瞬間、地雷が向こうからやってくる。
それがコールセンターの悲しい事実なんだなあ」