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2014-03-25
塔の上のラプンツェル
舞台は中世ヨーロッパあたり。
主役は魔法の長い髪の毛を持った女の子で、
幼いころ悪い魔女に誘拐され、魔女の娘として
育てられてきました。

女の子の実の両親であるどこかの国の国王と王女は
女の子の誕生日にローソク気球をたくさん空に飛ばしていました。
主役はそれを遠くから見て、いつか近くで見たいと思ます。

そのうち、主役のいる塔に泥棒の男が、盗みの際の仲間割れで
逃げ込んできます。
主役は殴って気絶させ、男の盗品を取り上げ、
返してほしければ自分を塔から連れ出し、
ローソク気球を見に連れて行けと言います。
男は了承します。
この男が準主役です。

見に行く途中ぼちぼちとできごとがあり、
主役と準主役は仲良くなっていきます。

そこへ悪い魔女がこっそり来て、仲たがいをさせようとします。
準主役は巻き込まれて、泥棒としてお城につかまります。

けれど馬やその他の人間の手引きにより脱出し、
準主役が裏切ったと思って傷心で塔に戻っていた主役の元へ
向かいます。

悪い魔女は準主役をナイフで刺し、致命傷を与えます。
主役は魔法の髪による癒しの力で助けようとしますが、
魔女が阻害します。
主役は、準主役を助けさせてくれたら
一生魔女の言うことを聞くと約束し、準主役を助けに行きます。

準主役は、主役を一生縛らせるわけにはいかないので
助けなくていいと言います。そして、主役の魔法の髪を切ります。
準主役は死にます。

魔女は自分の若さを保つために利用していた、
主役の魔法の髪がなくなり、一気に老け込みます。
そのまま混乱中の事故で塔から落ちて死にます。

主役は泣き、その涙が準主役に落ちると魔法の残滓か何かが
力を発揮し、準主役がよみがえります。

主役と準主役は、主役の親の城に行きます。
その後、二人は幸せに暮らしました。


……というようなお話です。

簡単に言えば、悪い親に人生と自意識を支配され、
抑圧されていたこどもが自由意志を取り戻し、
悪い親から解放されて自分の人生を生きるお話です。

それだけだとだらだらしたつまらない青春ものになりそうですが、
うまくちょっとした冒険ものでまとめてありました。

途中でミュージカルのように入ってくる歌の中で、
主役がうたう歌、『わたしのLifeはいつはじまるの?』も
主題をよくあらわしていました。
日本語だと『自由への扉』になってしまって
すこし意味が変わってしまいますけれど。

日本語の歌詞だと、『毎日おんなじ暮らしでうんざり』という
感じが強いように思います。
けれど原曲の英語版だと、『毎日惰性で同じ暮らしを
しているけれど、それは本当のわたしのものじゃない。
わたしの"Life"、"わたし"の人生、"わたし"の生活、
"わたし"の生命をはじめたい!』という、
飛び出したい渇望を感じさせます。
主役は外に飛び出したいのです。

でも、そうやって外に出たいうずきを持っていても、
育ての親の前では言葉がうまくでません。
他人のエネルギーを奪い、他人の行動を支配下に置く、
こどもにとってはいわゆる『毒親』である魔女の前に出ると
意欲もなにも折られてしまうというのが
意外とリアルでげんなりました。

本当に悪い人間は育ての親の魔女で、
こどもを支配し、洗脳するやりくちがとても『よくありがち』な
感じで見ていていらいらしました。
また、主役は何歳なのだか忘れましたが、
赤ちゃんのころにさらってそこまで誘拐・監禁しつづけた
というのも実際の事件を思ってすごくつらくなりました。

それでも誘拐された娘を思い、毎年娘に呼びかける
ローソク気球を飛ばしていた両親の思いは
どんなものだったのでしょうか。
もしかしたら死んでいるかもと思ったこともあるでしょう。
でも、親がそれを思ったらおしまいだと、
自分を奮い立たせることもあったかもしれません。
それは、小さい子どもを誘拐されても、
テレビで呼びかけたりする親の姿と重なりました。

それらを置いておけば、映画はとてもテンポや間がよかったです。
場面転換というか、ボケとツッコミのコンビネーションというか、
そういう間がすごくうまくできていて、
つい笑わさってしまいます。

たとえば、男を気絶させるフライパン。
一回たたくだけかと思いきや、すごいタイミングで何度も叩き、
男を気絶させます。
しかもそのフライパン、ちょっと使っておしまいにするかと
思ったら、その後も、大水に飲まれたあとでも、
かたくなに持ち続けます。
たしか最後の最後で馬が騎士団を集めるところでも、
騎士たちがフライパンを持って構えていたような気がします。
そういうネタもすごいです。

それから、気絶させた男を起こすカメレオン。
男の肩に乗り、まずは尻尾でビンタ。
即座に見つからないように服と同じ色に化け、
それでも男が起きないと、今度は化けずにビンタ。
それでも起きない男の耳の穴に舌を突っ込み、
男は飛び起きます。

そんな、動作と呼吸だけで笑いのできる場面が
ぽんぽんと出てくるので、笑いながら見られました。

ごろつきたちのいる酒場に入り、悪者を改心させ、
改心させた悪者が歌いだし、準主役に歌を強要する場面も
印象に残っています。
準主役は一度は拒みますが、おどされると次のカットでは
さらっと歌いだす、その呼吸もよかったです。

そういうカット、場面転換の技術はとても今風に思いました。
古い話を題材にしているのに、言葉や動作など
今風なものを取り入れてバランスが取れているのは
うまいと思いました。

まとめると、悪い魔女が主役をやりこめようとするシーンは
現実の変なリアリティがあって気分が悪いですが、
それ以外のシーンはとても軽く、テンポがよく、
動きもあって楽しめました。
全体としてはなかなかおもしろく見られる映画でした。